水に顔をつけるのが怖い。
息ができない気がする。
この悩みを持っている人は、本当に多いです。
以前、30代前半の男性と一緒にレッスンをしたことがあります。
その方は、子どもの頃に溺れた経験があり、小学校から高校まで、ずっとプールを避けてきました。
ある日、練習場所に移動するためにコースロープを越える場面がありました。
泳げる人なら、少し潜ってくぐるだけの場面です。
でもその方は、ロープを必死に持ち上げて、顔を水につけないように移動しようとしていました。
ドキドキして暴れるわけでもない。
震えているわけでもない。
ただ、どうしたら顔をつけずに済むかを必死に考えている表情でした。
その姿を見て、
「ああ、この人は今、水が怖いんじゃなくて、過去の記憶と向き合っているんだ」
そう感じました。
大人の怖さは、静かです。
子どものように「怖い」と言葉にしない分、体の中で固まってしまう。
気合で乗り切ろうとする分、余計に力が入ってしまう。
昔の僕は、
指導料をいただいている以上、変えなければいけない
できるようにさせなければいけない
そんな気持ちで指導していました。
寄り添うより、変えようとしていた。
今思えば、辛い時間を過ごさせてしまった人もいたと思います。
考え方が変わったのは、
成人スクールで高齢の女性がパニックになった場面でした。
足がつく浅い場所なのに、立てなくて溺れそうになっていました。
その時、はっきり分かりました。
進むタイミングを決めるのは、コーチじゃない。
泳ぐのは、生徒さん自身だということ。
今、僕が一番最初に見るのは表情です。
言葉だけでなく、話しているときの空気。
本当に「大丈夫そうか」を感じ取ります。
顔つけの練習は段階的に進めます。
口、鼻、おでこ、顔全体。
でも次に進むかどうかは、必ず相談します。
「次、これやってみる?」
「もう少し今の練習続ける?」
生徒さん自身が納得して
「やってみようかな」と思えたら、それで十分。
できたかどうかより、
やろうと思えた気持ちが一番大切です。
水に顔をつける練習は、プールだけじゃありません。
お風呂でも、洗面器でもできます。
だから焦らなくていい。
比べなくていい。
自分のペースで大丈夫です。
「もう大丈夫」
「そんなに怖くない」
そう思えるまで、何度でも基本を繰り返していい。
その積み重ねが、
必ず次の一歩につながります。